猪名川グローカルプロジェクトについて

地域×生徒×農業

— 専修学校を核とし相互課題を解決するネットワークの構築 —

〜猪名川グローカルプロジェクト〜

2018年、文部科学省「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」のメニューの一つである「教育プログラム等の開発」に新規事業として加わった「学びのセーフティネット機能強化に向けたチーム高等専修学校の構築」のモデル構築に、猪名川甲英高等学院は「学びのセーフティネット機能強化に向けたチーム高等専修学校の構築」のモデル構築に、「地域×生徒×農業 ― 専修学校を核とし相互課題を解決するネットワークの構築 ― 」という事業を提案し、参画することになりました。

もとより猪名川甲英高等学院は、文科省が事業趣旨に謳うとおり、「各地域から人的・物的協力などを得ることでカリキュラムの実効性、事業の効率性を高めつつ」運営されてきました。「地域のためが子供のため・子供のためが地域のため」そういう教育はこれからもゆっくりと醸成していくつもりでした。文科省の事業に参画することを機に、「猪名川グローカルプロジェクト」として、想定していたチャレンジを一気に進めていくことにしました。

猪名川甲英高等学院では、さまざまな課題や生きづらさを抱えた子供たちが、農業の授業を通じてそれぞれに役割があること、助け合って活かし合うことで多様性のなかで生きることを学んでいます。私たちから、農業の学びを通じた「学校+地域+農業」によるフレームを提案していきます。

猪名川甲英高等学院

猪名川甲英高等学院について

猪名川甲英高等学院は、阪神間の喧騒から離れた猪名川町阿古谷に立地します。140年の歴史をもつ旧猪名川町立阿古谷小学校の廃校跡活用事業として、日本で唯一となる農業実務課程の高等専修学校として2016年4月に開校した、とても若い学校です。

村のみんなの故郷であり、みんなが集う中心である小学校の廃校は、村の人々にとってとても淋しいことだったでしょう。そこにやってきたのが猪名川甲英高等学院でした。

学校という狭い世界での躓きや恐怖や喪失のせいで、生きづらさを抱えてしまった子供たちのために存在してきた大前学園。そんな子供たちが安心して学び、再チャレンジできる学校として、豊かな自然に囲まれた阿古谷はこれ以上ない環境でした。猪名川甲英高等学院は、「農村の小さな高校で村のやさしい人たちや、農業という分野で生きるたくましいプロたちとともに学ぶこと」を教育のコンセプトとしてゆっくりとスタートしました。

猪名川甲英高等学院と地域

猪名川甲英高等学院 × 地域

   小学校がなくなった阿古谷の村にやってきた猪名川甲英高等学院を、地域は心から歓迎してくれています。農業について教えてくれたり、田畑を貸してくれたり。トラクターやチェーンソーなど、子供にはできない作業をやってくれたり。学校に地域の人々が遊びにきてくれることもよくありますし、自分の畑で穫れたものを持ってきてくれたりもします。遅刻した子が歩いていたら、軽トラックで学校まで送ってくれた人もいました。
   いっぽうで、子供たちも地域に活力を与えることで貢献しようとしています。ここに小学校があったころと同じようにここで祭や運動会を開いています。何十年も前に途絶えた地域の獅子舞を、子供たちが復活させて舞ったことは、地域の高齢者に大変喜ばれました。
   これからも猪名川甲英高等学院は、優しい阿古谷の人たちと支え合いながら共にあり続けます。

猪名川甲英高等学院と農業

猪名川甲英高等学院 × 農業

   猪名川甲英では子供たちが、農業実習に取り組んでいます。農業の根幹には「共生と循環」があります。さまざまな生物が多様性を持って共生していることを活かし、命のつながりと物質の循環をだいじにしています。さまざまな個性を持った子供たちが、お互いを認め合いながら助け合いながら学ぶ、この学校の考え方にぴったりです。農業を専門的に学びたい、外に出られるのが楽しい、収穫できて嬉しい…どれであってもいいと思っています。
   得意を伸ばして苦手なことを補い合えるのが農業です。そもそも、これまで彼らが中学で経験していないものなので、これまで自分の強みだったけど発揮できなかったものに気づくことができます。体力のある子が肉体労働をよけいにしてあげたり、マイペースと言われてきた子が細かい作業を根気よく丁寧にできたり。野菜に愛情を持つことで子供にスイッチが入ることもあります。
   阿古谷の自然に囲まれて、みんなで協力しながら自分たちで野菜を育てる。その経験は、必ず子供たちを豊かにします。

<農業教育分科会>

地域農業の課題を議論し、地域の農業従事者との協働などによって農業教育のカリキュラムを再構築、さらには就農希望者のキャリア支援をもおこなう

 

学校の実習で取り組んでいる有機農業の周囲にある慣行農業/販売や流通/作物を売って生業を建てるということといった「地域農業のリアル」をどう学ぶか、また、学んだ農業をキャリアにどう活かしていくかを議論してきました。まずは、プロの農場での作業実習やJAとの協働による販売実習に始まり、さらには地域農家のもとでのインターンシップの実施まで、2年をかけてカリキュラムの再構築のための議論と実験を行ってきました。

 

2年に亘る農家との議論や活動のなかで浮き彫りになったのは、「学校のアタリマエ」と農作物のジレンマです。

学校では一学期に夏野菜の植え付けをし、その世話をします。しかし、せっかくの収穫のタイミングである夏の期間、学校は夏季休暇に入ってしまいます。農家のみなさんや、農業教育分科会のNPO法人農商工連携サポートセンター代表の大塚洋一郎氏などとの議論の中から、学校での農業教育が栽培に偏重していることが指摘されました。農と食・農と業は不可分であると。

栽培した作物の収穫、そして、その収穫物を食べることや売ることこそが農業の肝であるにもかかわらず、夏季休暇があるせいで肝要を学べていないという問題意識から、最終年度については、夏季休暇中に登校日を多く設定することを検討しています。その日には、収穫活動に加え、収穫物の調理や販売などをおこなうことを想定しています。

最終年度は、

・販売体験をおこなう実証講座を設定する

・販売や調理をする野菜を確実に確保するためにも、近隣農家の田畑で栽培と収穫をおこなう実証講座を設定する

ことなどを検討しています。

その代わりに秋休みを設定、そのために、じゅうぜんよりその意義について議論のあった中間考査を廃止することも検討しています。

さらには、年間スケジュールを柔軟にすることに合わせて、時間割も柔軟にすることを検討しています。

農業実習を含めた通常の学級授業をすべて午前中にはめ込んだうえで、午後を「選択授業」の日と「自分の学力に合わせた自習+ホームルーム」の日に設定することを検討しています。

このことによって、農業実習の振替を容易にします。猪名川甲英の学習にとっていちばんの特徴である農業実習ですが、雨に祟られたときにはとうぜん座学に振替になってしまいます。このことで、その時期にそ想定していた作業ができなくなってしまうと、子供が学びのチャンスを逃すばかりか。教員がその作業をどこかの時間でおこなうことで負担になったりもしています。午後に自由度の高いコマを設定しておくことで、雨に祟られた農業実習を別の日の午後に振り替えることが容易になります。

今年度同様、「グローカルの日」を設定することに加え、午後のコマにも柔軟性をもたせることで、外部と連携した実証講座もより設定しやすくなります。

いよいよ連携事業を学校の通常活動に組み込んでルーティン化していくことを目標としていることから、「野菜と地域の都合に合わせやすいようにスケジュールを柔軟にする」ことになります。また、このスケジューリングを試行することで、先では、高等専修学校の柔軟さを活かした二学期制への移行も視野に入れています。

 

独立起業である「就農」はハードルが高いですし、農業分野で就職するにも就職口は限定的です。そこで、インターンシップや実証講座を受けて、農家の側から、卒業生が阿古谷で学校の参加で農業に従事できる体制を構築することの提案を受けました。

もしその提案が実現するとすれば、就農を希望する卒業生の受け皿になります。在校生にとっても学校の農園で授業として取り組む農業に加えて、隣で生業としての農業に取り組もうとしている卒業生がいることはたいへんな刺戟になります。さらには高齢化して離農者の増えている地域農業の活性化にも寄与することになります。

次年度は継続的なグローカルの推進に加え、地域×農業で学ぶ猪名川甲英の「2.0」ともなりうるプロジェクトを起動させることになります。

   学校の実習で取り組んでいる有機農業の周囲にある慣行農業、販売や流通、作物を売って生業を建てるということといった「地域農業のリアル」をどう学ぶかを議論しました。農場での作業実習やJAとの協働による販売実習などをつうじて、議論は「校外での体験事業の設計と実施」に留まらず、猪名川甲英でおこなわれているあらゆる農業学習のカリキュラムの総棚卸をし、学校の実習と座学と校外実習を組み合わせて「3年間で"農業"をどう学ぶのか」を再設計すべきということに至りました。

猪名川グローカルプロジェクトのサポートメンバー
  • 中野耕太郎@なかなかファーム(代表) 脱サラ後岡山で果樹栽培~大阪で職業訓練教育~猪名川で新規就農
  • 北山純也@北山農園(代表) 猪名川町の若手農業従事者のリーダー的存在・JA青年部会長でもある
  • 大塚洋一郎@農商工連携サポートセンター(代表) 6次産業化やグリーンツーリズムを支援するNPO法人・元経産省
  • 谷清/井谷丈志@阿古谷みらい協議会 学校との相互発展をめざした地域任意団体
地域連携分科会|猪名川グローカルプロジェクト

<地域連携分科会>

阿古谷地域と猪名川町の課題を議論し、学校と地域の協働で課題を解決するカリキュラムを設計する

 

学校と子供たちが地域の自然と優しい地域の人々に育まれ、学校と子供たちが地域に活力を与える。猪名川甲英高等学院は設立3年にして、地域と共に支え合う学校になりました。子供たちがさらに深く地域と関わり、地域を識ることで、彼らの刺戟になることはないか、地域の行事や地域の課題について子供たちと地域が協力して取り組むことができないかを議論してきました。

子供たちがより猪名川の地域についてより深く識るために、猪名川町教育委員会の支援を受けて、国史跡多田銀銅山の見学をおこないました。この見学の検証から、子供たちが校外のオトナたちとのふれあいをとても刺戟に感じているということがわかりました。これを受けて、地域団体や教育委員会などの支援を受けた校外での学びをさらに実施していくことを検討しています。

いっぽうで、彼らが人の役に立つことを特別嬉しいと感じていることが明らかになりました。生きづらさを抱えてきた子供たちは承認欲求が強いのかもしれません。そのことから、学校のある阿古谷地域の地域活動の"お手伝い"が学びになるような仕組みを作っていこうということを検討することになりました。祭、清掃、山林や農地の保全といった行事に子供たちが参加し、同時に体験学習ができたり地域の歴史を学べたりするようなカリキュラムを作っていこうと考えています。農業だけではなく、農村や森の知恵を学び、農村で暮らす意味を知れば、都会から離れて里に暮らすことを選択肢として考えるようになるとも期待しています。

学校側で地域行事のスケジュールを把握し、「行事参加+学び」を企画・運営していく体制を作っていくのが次年度の目標です。

 

地域連携分科会の取りくみ事例その1|猪名川グローカルプロジェクト

国史跡多田銀銅山の見学|猪名川グローカルプロジェクト

猪名川グローカルプロジェクトのサポートメンバー
  • 谷清/井谷丈志@阿古谷みらい協議会 学校との相互発展をめざした地域任意団体
  • 仲井常雄@阿古谷まちづくり協議会 阿古谷地域の地域団体
  • 前田悟@猪名川町企画総務部企画財政課 猪名川町役場で「高校生フォーラム」を主催
  • 井上知香@猪名川町教育委員会教育振興課社会教育室 猪名川町の文化行政に携わる学芸員
  • 辻武史@つじ農園(千年村プロジェクト) 千年村プロジェクトのメンバー

課題を抱えた子どもたちへの指導について各分野の専門家の高度な知見を付加することで技術的小合理的根拠のある指導を構築し情報を共有化することをめざす

 

猪名川甲英の教員たちは専門知識や技術ではなく「丁寧な指導」「センス」によって生きづらさを抱えてきた子供たちに接してきていました。クラス内で子供たちがサポートし合う環境を醸成することで子供たちに再チャレンジを促していました。その状態に各分野の専門家の高度な知見を付加することで、技術的合理的根拠のある指導を構築し、情報を共有化することをめざして議論を始めました。

プロジェクト2年目には、専門家による基本的な教員研修の実施、高校生支援NPOによるLINE@相談窓口の開設、心理カウンセラーによる授業とスクールカウンセリング、「進学対策自習室」の設置など、実験的な協働事業を多数実施するとともに、全生徒にChromeブックを配備し、G Suiteのポータルサイトを構築、さらには全生徒に標準化しました。

最終年度には、実験的な取組の定着を図ることに加え、発達障害専門家による授業視察と個別化アドバイス、さらには教員との合同ケース会議などを予定しています。

さらには、「発達障害の傾向をもつ子供が、生活や体調の変調に気づくことが二次障害の予防につながる」という意見を受けて、「マイニチチェック」という名前のシステムの構築を開始しました。昨年度後半から実験的に供用開始し、本年度はリニューアルをかけながら本格的なシステムにできるように開発を本格化させます。

猪名川グローカルプロジェクトのサポートメンバー
  • 辻真佐美@猪名川町教育委員会学校教育課 特別支援教育を推進する指導主事・元中学校職で8年間特支担任
  • 市橋拓@株式会社サルビアジュニア(代表取締役) 放課後等デイサービス・児童発達支援
  • 今井紀明@認定NPO法人DxP(理事長) 不登校や引きこもりの支援をしているNPO法人
  • 出口のりこ@NPO法人タッチカウンセリング協会(理事長) 心理カウンセラー・子育てコンサル・森のようちえん
  • 三浦伸恵@作業療法士